経営企画室の担当者がいまさら聞けない。「CVC」コーポレートベンリャリングやコーポレートベンチャーキャピタルを徹底解説

2024.05.03

SB Insights

経営企画室の担当者がいまさら聞けない。「CVC」コーポレートベンリャリングやコーポレートベンチャーキャピタルを徹底解説

SHARE -

CVCの定義と類型:イノベーションの実現には様々な投資手法がある。

CVCはイノベーション実現に向けた投資手法である。他の投資手法としては、R&DやM&Aといったものがある。まずはCVC戦略の前提となる。投資手法を整理するのにあたって、CVCの位置づけを検討する。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授は、イノベーションは「知の探索と深化」が重要と述べている。この考え方を用いて、縦軸は知の探索を示唆する事業類型(既存か新規か)、横軸は知の深化を示唆する時間軸としてイノベーション投資手法を図で整理した。

図:イノベーション投資手法(出所:実践cvc: 戦略策定から設立・投資評価まで)

既存・新規事業に係る短期的な投資手法としてはM&Aがある。これはまさしく時間を買うことで事業シナジーに実現によるプロダクト及びビジネスモデルのイノベーションを図る手法である。
既存事業に係る中長期的投資手法としては、R&Dがあるが、これは既存事業で継続的にプロダクトイノベーションを図るものである。
そして、新規事業に係る中長期的投資手法としてあるのがCVCである。CVCは、事業会社によるスタートアップへの投資であるが、スタートアップはそもそもオンリーワンの新しい事業を企図していることから、CVCは新規事業に位置付けられる。

コーポレートベンチャリングの類型

CVCがイノベーション創発の有効な投資手法であることは、上述したとおりです。
ただし、CVCはコーポレートベンチャリングにおける1つの方法であり、この他にもインキュベーションプログラムやアクセラレータープログラムといった様々な方法を整理する。

図:コーポレートベンチャリングの類型(出所:実践cvc: 戦略策定から設立・投資評価まで)

コーポレートベンチャリングはまず2つに大別される。1つは必ずしも投資を伴わないインキュベーションプログラム、アクセラレータープログラム、業務・技術提携。
もう1つは、投資を伴う手法であるJV・M&A・CVCである。
インキュベーションプログラムとアクセラレータープログラムに共通しているのは、大企業がスタートアップの事業立上を孵化(インキュベート)、加速(アクセラレート)するために、プログラムを開催して、そこに応募のあった企業の選考プロセスを通過した企業のみに自社のリソース提供などの支援を行うことを目的としており、あくまでも応募があった企業の中の出会いが期待できない。

インキュベーションプログラム

革新的なアイディアをどのように事業化するかといった観点から、より若いステージにあるスタートアップの支援を目的として、プログラム実施主体である大企業が事業リソースを提供しており、より革新的な事業を孵化させるための環境を提供することを重視している。

アクセラレータープログラム

スタートアップの事業を短期間で加速化させることを目的としている。プログラム実施主体である大企業は、その先の出資も視野に入れ、極めて有望と見込まれるスタートアップに対して集中して、事業リソースを提供することを重視している。

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)

次に投資を伴う手法としては、基本的にはCVCが該当する。CVCは大きくベンチャーキャピタルへのLP出資、スタートアップへのBS直接投資、CVCファンドを組成したファンド投資の3パターンがあり、大企業の目的により使い分けがなされる。インキュベーションプログラムやアクセラレータープログラムがシード期のスタートアップを対象とした「支援」が中心となるのに対して、CVCはシード期からレイターと呼ばれる広範囲なスタートアップを対象とした「協業」が中心と定義されている。

CVCの一般的なメリット・デメリットはこちらでも解説しています。

CVCのリターン

CVCの究極的な目的は、イノベーションの実現であるが、その目的に到達するまでにCVCを通して、得られるリターンにはどのようなものが考えられるだろうか。リターンは戦略リターンと財務リターンに大別される。
戦略リターンはCVCを通じて、通じた協業活動から得られる技術・ノウハウ・情報といった新しい経営資源や新製品・サービスの販売による成果を指す。財務リターンは投資先スタートアップのIPOやM&Aに伴うキャピタルゲインを指す。
スタートアップのステージごとに期待できるリターンを図で整理しつつ解説していく。

図:戦略リターンと財務リターンの類型(出所:実践cvc: 戦略策定から設立・投資評価まで)

アーリーステージ

アーリーステージのスタートアップは、プロトタイプは完成している段階にあることが多く、大企業が事業リーソスや出資をする見返りとして、スタートアップが有する革新的技術やそのノウハウを戦略リターンとして獲得できる可能性がある。ここで獲得できる情報やノウハウには3つの要素がある。
・現時点では大企業との既存技術との関係性は定かではないが、将来的に機会・脅威となり得る技術をモニタリングすることでノウハウを取得する。
・大企業が開発したい技術は特定されているが、阻害要因・効率性の観点から、スタートアップへの投資を通じて、特定技術を獲得する。
・大企業が進出を企図する事業領域のビジネスモデルに関するノウハウを取得する。

ミドルステージ

スタートアップに対する「技術提供の対価」と「顧客化」である。これはスタートアップが必要とする技術やアセットを大企業が提供し、その対価を得るという戦略リターンである。ただし、ここでは対価を得て儲けることではなく、大企業とスタートアップの関係値をより強固にしつつ、ミドルステージのスタートアップをレイターステージへと迅速かつ円滑に成長させるための支援の意味合いが強い。
このようにミドルステージにおける戦略リターンはスタートアップの潜在性と将来性を先取りするオプションを得ることである。

レイターステージ

戦略リターンは大企業とスタートアップの相互の技術を用いて新製品/サービスを開発し、それらを主に大企業の顧客基盤を通じて拡販することである。レイターステージにあるスタートアップ企業の事業は確立されつつあるものの、依然として知名度は低く、マーケティングが課題となるケースが多い。従って、大企業がCVCを通じて、顧客基盤や物流基盤を提供することで、製品/サービスの拡大を図り、顕在化した果実としての戦略リターンを獲得する。

財務リターン

投資先のスタートアップがIPOやM&Aなどを通じた株式の売却によりCVCにもたらされるキャピタルゲインが該当するが、投資するスタートアップのステージにもよるが、財務リターンの獲得までの道のりは長いと理解しておくことが重要である。

CVCの投資領域の考え方

CVC活動にあたっては、M&Aと違って不確実性が高い投資であるがゆえに、適切なポートフォリオ管理(適切なリスク分散)が重要である。自社のポートフォリオを検討する上で、CVCで一般的に用いられる投資領域について3つに大別して、図で整理をした。

投資領域手法リターン
既存事業補完型M&A
R&D
CVC
既存事業と補完性があり、既存事業からの距離も近いスタートアップが対象。
この領域は、TGがM&Aと近似するため、イメージはしやすいく、ここからスタートするケースも多い
既存事業代替型業務提携
CVC
既存事業への代替性があり、既存事業との距離が近いスタートアップが対象。M&Aでは投資対象外となる、既存事業と相乗効果のない、既存事業にとって脅威・競合となる新規領域への中期的時間軸の投資
青田刈り(アンテナ)型CVC既存事業にとっての補完性や代替性が全く読めない領域のスタートアップが対象将来既存事業に与える影響は不明だが、イノベーションの芽として「張っておきたい」領域が青田刈り型にあたる。
(出所:実践cvc: 戦略策定から設立・投資評価まで)

CVC設立スキーム

最後に、CVCをスタートする上で、検討のネックになることの多い設立スキームについて図で整理をおこない解説をする。
CVCというキーワードを聞くと、ファンド化をイメージすることが多いが、実は実態としては、国内のCVC活動を行っている法人の約半数はファンド化をしていない。

本体BS投資

今回解説するスキームの中では、最もシンプルとなっている。メリットとしては外部にCVC活動開始を知られることなく、ステルスでスタートできることや、大企業が本体のBSから直接投資をする手法となっており、CVCスタートまでのハードルが最も低いのが特徴となる。デメリットとしては、大企業の承認プロセスなどによっては、投資意思決定までのプロセスが煩雑で、スタートアップ投資のスピードについていくことが出来ずに、投資が出来ない可能性やスタートアップが減損をした場合にダイレクトに本体の損失となってしまう可能性などがある。

CVC子会社投資

大企業がCVC投資を目的とした子会社を設立して、投資を行っていく手法で、メリットは子会社設立によりCVC活動を対外的にアピールしやい。投資専門の子会社として設立するため、投資意思決定の迅速化などが挙げられる。反対にデメリットとしては、外部からもCVC活動の開始を確認できるため、会社の方向性が変わった際に撤退をしずらい。会社を設立することにより連結会計処理などの業務増加などがある。

CVCファンド組成

ファンド組成するために、メリットとしては、ファンド化することで、投資先のキャピタルゲインや損失などをファンドとして管理することで、本体への影響を少なくすることができる。デメリットとしては、投資経験のある専門人材の配置、金融庁などの当局への報告などのやりとりなど煩雑な業務が増える。

CVCファンド(二人組合)の組成

VCなどの投資に長けた他社とファンドを組成する。メリットとしては、契約次第ではあるものの、CVC活動やファンド管理業務全般を他社にまるごと委託できるため、大企業が社内ですべての人材を揃える必要がなくなる。デメリットとしては、一般的なCVC二人組合ファンドの組成には30億~100億のファンド資金の準備を求められることが多く、ファンド資金の捻出が高額になるため検討ハードルが高い。

まとめ

今回はいまさら聞けないCVC徹底解説として、そもそもコーポレートベンチャリングとはどのような定義なのかというところから、リターンに対する考え方や、実際にCVC設立をするうえでのスキームについて解説をした。多額の資金拠出をしてCVCファンドを組成するほど、社内の方向性は定まっていないが、新規事業開発やオープンイノベーションの実現のために、CVCを検討している企業はソーシング・ブラザーズ株式会社にご相談ください。ソーシング・ブラザーズ株式会社では、BS直接投資~ファンド組成まですべてスキームに対応して、テーラーメイドのCVC支援が可能になっております。

RECOMMENDED