スタートアップにおけるストックオプションの考察と解説

2024.10.22

SB Insights

スタートアップにおけるストックオプションの考察と解説

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スタートアップのストックオプションは、付与をされた従業員にとって非常に強力なインセンティブであり、特に成長が期待される企業では非常に大きな価値を持つ可能性があります。以下では、ストックオプションの仕組みを説明し、従業員の立場から見たメリットや種類・留意点を整理します。


ストックオプションの仕組み

1.1 基本的な仕組み

ストックオプションは、特定の価格(行使価格)で将来、会社の株式を購入できる権利です。創業間もないスタートアップにおいて優秀な人材を獲得するために満足のいく現金報酬を提示できないフェーズなどで、現金報酬では補いきれない分を株式報酬(インセンティブ)として、役員や従業員にこれを付与します。付与された役員や従業員はこの権利を、通常、一定の期間が経過した後(ベスティング期間)、行使可能となります。

1.2 仕組みの流れ

  1. オプション付与(Grant)
    会社は従業員に一定数のストックオプションを付与します。この段階ではまだ株式を購入する権利のみが与えられ、実際の株式を保有しているわけではありません。また、資金調達を繰り返すスタートアップにおいては、希薄化した創業者の持ち分比率を高めるために、創業者に対して、ストックオプションを発行するケースも多いです。
  2. ベスティング期間
    多くの場合、ストックオプションは付与後すぐには行使できず、一定の期間(通常4~5年、最大10年間)にわたって段階的に行使可能な状態に移行します。この期間を「ベスティング(権利確定)期間」と言います。
  3. オプション行使
    ベスティング期間を経て、従業員は段階的にオプションを行使し、行使価格で株式を購入することができます。このとき、会社の株価が行使価格を上回っていれば、従業員に利益が発生します。一般的にはスタートアップが上場前に発行しているストックオプションでは、行使価格よりも上場しているときの株価の方が圧倒的に高くなっているケースの方が多く、多額の利益が発生します。
  4. 株式の売却
    オプション行使後、取得した株式を売却することで利益を実現します。スタートアップが上場していれば市場で自由に売却ができる上に、保有し続けることで、資産形成が可能になります。

ストックオプションのメリット

2.1 株式報酬としてのキャピタルゲインへの期待値

従業員は、行使価格と株式市場価値の差額が利益となります。スタートアップが大きく成長し、株価が行使価格上回る場合、従業員は利益を得ることができます。特に初期のスタートアップであれば、株価が数倍、数十倍になる可能性があり、大きなインセンティブになります。また、上場後も売却をせずに保有し続けることで、企業価値向上(株価上昇)に伴い資産価値が大きく上昇していきます。

2.2 コミットメントの強化

ストックオプションは、従業員が会社の成功に直接的な利害関係を持つようになります。これにより、会社の成長を支えるための強いモチベーションや当事者意識が生まれ、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。また、上場後に株価が形成された後に発行される譲渡制限付株式ユニット(RSU)や有償ストックオプションと比較して、未上場のタイミングで発行されるスタートアップのストックオプションは得られる利益の期待値も大きいことからモチベーションアップに効果的です。

2.3 報酬の一部として活用

スタートアップは現金報酬を抑えながら、ストックオプションを活用して人材を惹きつけていくことが多く、従業員にとっては、安定している大企業からスタートアップへと転職し、年収が下がっているケースがあります。そんなリスクを取った従業員のために、株式報酬としてストックオプションを付与することで、税制適格ストックオプションであれば、無償で将来的に数百万円~数千万円(場合によっては数億円)という大きなリターンを期待できるとため、即時の高い現金報酬を必要としない人材にとっては強力な報酬設計となります。

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2.4 分離課税による低い税率

ストックオプションは権利行使後は、有価証券扱いになるため、売却によって得られるキャピタルゲインは株式譲渡所得として分離課税となり、税率は20.315%となるため、総合課税となる現金報酬(給与)と比較した際に手取り額が大幅に増えるため、現金報酬として給与を受け取る場合の可処分所得と比較した場合は、年収の数十年分相当の手取りになるというケースも珍しくありません。


ストックオプションの種類

税制適格ストックオプションは「無償ストック・オプション」と呼ばれる、発行時に払込がないタイプのストックオプションです。それに対して「有償ストック・オプション」と呼ばれるものも存在します。このふたつには、次の違いがあります。

・金銭的負担の違い
・行使期間
・付与された従業員のモチベーション

それぞれ詳しく見ていきましょう。

3.1 金銭的負担の違い

税制適格ストックオプションと有償ストックオプションでは、税金が発生するタイミングに違いはありません。どちらも株式譲渡時に税率20.315%となり、権利行使時には税金は不要です。
しかし、新株予約契約を結んだ際に、払込が必要か不要かの違いがあります。

有償ストックオプションの場合、新株予約権の契約が締結した時点で設定された価額を支払わなければなりません。一方で、税制適格ストックオプションは払込が不要です。費用の面で手を出しやすさを比べるのであれば、税制適格ストックオプションのほうが、費用を抑えられます。

3.2 行使期間

行使期間にも違いがあります。税制適格ストックオプションは先述のとおり、新株予約権の契約締結から2~10年以内に権利を行使する必要がありました。一方の有償ストックオプションは期限が設けられておらず、権利行使はストックオプションを利用できる人の裁量で変えることができます。そのため、ディープテック系のスタートアップや長期間掛けてユニコーン企業を目指すスタートアップなど、10年以内にストックオプションを行使できない可能性がある場合に有償ストックオプションが選ばれるケースがあります。

ただし、有償ストックオプションの場合、権利が付与されたタイミングではなく、権利を行使した際の株価をもとに価額が決定されます。行使期間がないメリットが有償ストック・オプションにはあるものの、タイミングによっては損をしてしまう可能性があります。

3.3 付与された従業員からの認識のギャップ

仕組みの違いとは別に、特性上どうしてもモチベーションに差が生まれてしまうのも、違いのひとつです。税制適格ストックオプションは無償で発行されるため、仕組みをよく理解していなければ、インセンティブ効果を得られることが少なくなってしまいます。

一方で、有償ストックオプションは権利を獲得する前段階から、一定の費用が必要となります。企業の成長がそのまま売却時に利益となって戻ってくるシステムは同じですが、身銭を削っているか否かでインセンティブ効果を受けられるかどうかが大きく異なるでしょう。


ストックオプションの留意点

4.1 流動性が低い

ストックオプションの設計方法は、様々なパターンがありますが、国内のスタートアップは自社の目標として、IPOの実現を目指していることが多く、ストックオプションも上場に貢献した従業員に対して、上場後の果実を分けるという趣旨で付与されることが一般的です。
そのため、行使条件として、「上場後」という制限を設けられていることが一般的なため、流動性は低いことが留意点として挙げられます。


考察

ストックオプションは、特にスタートアップの初期段階で資金に余裕がない企業にとって、重要な報酬制度です。従業員にとっても、会社の成長に伴って得られる潜在的な利益が非常に大きいことから、強力なインセンティブになります。

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