株主間契約:投資家の視点で押さえておきたいポイントを解説

2025.01.31

株主間契約:投資家の視点で押さえておきたいポイントを解説

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スタートアップに投資を検討する際、株主間契約(株主間契約)は重要な意味を持ちます。創業者や経営陣だけでなく、投資家の視点からも事業成長に向けてどのような権利・義務を負う決定を明確にしておくことで、スムーズにコミニケーションを取ることが出来ます。

この記事では、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)のご担当者様など、スタートアップ投資を検討中の方を主な対象とし、株主間契約の基礎や投資家側から見た留意点をわかりやすく解説しますスタートアップとの関係構築を進めるための参考になれば幸いです。


目次

  1. 株主間契約とは?
  2. スタートアップ投資で株主間契約が重要な理由​
  3. 株主間契約に含まれる主な条項​
  4. 投資家の視点で控えたい留意点​
  5. よくあるトラブル・注意事例
  6. 株主間契約の作成・完了プロセス
  7. 要旨:株主間契約は成長とリスクヘッジを両立させる要
  8. 関連サービスのご案内

1. 株主間契約とは?

株主間契約とは、会社の株主同士の権利・義務関係や会社経営に関わる重要事項を決める契約のことが大きな特徴となります。

  • 定款との違い
    定款は「会社上の必須事項や事業目的、機関設計など」を決めるもので、会社の「ルールブック」です。 これに対する株主間契約は、投資家・創業者などの株主間で機微な取り決めを詳細に規定するため、外部には公開されない(非公開)形式が一般的です。
  • 契約当事者
    設立株主(経営陣)と投資家など、株を保有する当事者間で締結します。将来的に株主が増えた場合、新たな投資家も同契約に加入契約という形で参加するケースが多く見られます。

2. スタートアップ投資で株主間契約が重要な理由

スタートアップ投資ではは、中長期での高い成長を目指し、将来性に期待して、バリュエーションを決めて、数千万円~数億円を投資していきます。その際、投資家にとっては、数千万~数億円といった金額を投資したとしても、会社法上の株主としての権利としては、少数株主として扱われ弱い立場になってしまうケースが多いです。また、将来性に期待をして、バリュエーションを決めて投資をするため、相対的にリスクは高めの投資になることも多いことから、投下資本の回収やリスクヘッジ、株主として得られる権利が大きな注目点となりますます。一方、創業者側では、必要以上に小数株主の外部株主に権利を与えすぎると、ガバナンスや株式の希薄化、経営戦略への干渉になり、成長を阻害されてしまう場合もあります。

上記のような利害関係の調整手段として、株主間契約が機能します。投資家と創業者の双方にとって、

  • お互いの権利や義務を明確化(責任や権利義務の明確化)
  • 紛争の未然防止(トラブル時の処理方法を決める)
  • 経営方針のすり合わせ(役員選任や業務執行のルール設定)

といったメリットが得られるため、スタートアップ投資で重要視されるのです。


3. 株主間契約に含まれる主な条項

株主間契約にはさまざまな条項が含まれますが、ここではスタートアップ投資の現場で頻繁に出る主要な取り決めを中心に解説します。(契約書ごとに表現は異なります。)


3-1. 投資家保護条項

投資家の立場から見た場合、出資金を回収できるようにリスクをコントロールしたいというニーズがあります。

  • 追加投資権
    今後の資金調達でも、当該資金調達における同じ条件であれば追加投​​資を行う権利を設定し、資金需要が強く、調達を繰り返すスタートアップに投資した際に、追加の資金を出すことで、一定の持分を維持することができるように権利を付与して、他の投資家に比べて不利にならないようにします。
  • 経営者権限(事前承諾事項・事前通知事項)
    重要事項の決定のために投資家の同意が必要となる仕組みを決定する(重要な資産の売却、M&A、定款変更等)。

投資家保護条項は、スタートアップの自由を制限しかねないですが、不要なリスクや危険を負けないという意味で、双方にとって大きなメリットがあります。


3-2. 譲渡制限・ロックアップ

株式譲渡制限は、創業者や既存株主が株を外部に譲渡する場合には、他の株主の承諾を必要とする取り決めです。また
ロックアップとは、一定期間は株式を売却できないように制限条項ロックアップは創業者や従業員が自社株を大量に売却してしまうリスクを防止したり、直前の株式市場を防ぐ役割も担っています。

  • 投資家目線
    創業者や主要メンバーが「早くに株を売却して抜けてしまう」「コントロールできない第三者が株主となり、ガバナンスが壊れないか」を防ぐためにも、譲渡制限は重要です。
  • スタートアップの見通し
    譲渡制限を厳しくしすぎると、その後のラウンド継続での流動性確保が正義となる可能性もあるため、株主間で柔軟な運用ルールを確保することがポイントです。

3-3. 取締役選任権

取締役の選択任・解任に関するルールはガバナンスに広く関わるため、株主間契約で明確化するケースが多くなっています。付与したり、重要事項に対する拒否権(Veto)を設定する場合がございます。

  • 投資家選定取締役の役割
    スタートアップが正しい成長過程を維持するため、ガバナンスを強化することを目的として、取締役を指名する権利です。スタートアップに対して、最も多くのお金を投資している外部株主に対して、与えられることの多い権利です。
  • 経営陣とのバランス
    あまりにも投資家側が強い権限を持つと、創業者のモチベーションが低下やスタートアップとしての成長可能生を阻害する可能性がある。(一般的には1名や、1/5以内の人数を指名できるなどと表現されるケースが多い)

3-4. 優先株式や残余財産の分配

スタートアップ投資でよく見られるが、優先株の発行と残余財産の分配に関する条項です。

  • 優先株(Preferred Stock)
    一般株(普通株)とは異なり、リターン面で優先的な保護を受ける仕組みです。優先株式を活用した資金調達が主流になったことにより、投資家側は大きなリスクを取ることが可能になり、スタートアップの資金調達マーケットが大きく拡大しました。
  • 残余財産の分配(Liquidation Preference)
    M&Aや清算時には、投資家が優先的に資金回収できるように取り決めるです。本人や他の株主で分配するなどのルールを設定します。

投資家の視点では保護政策として有用ですが、スタートアップから見ると将来の分配構造が複雑に変化し、後から行うベンチャー投資家やIPO戦略との兼ね合いが生じるため、契約側に慎重な検討が必要です。


3-5. アンチ・ディリューション(希薄化防止)条項

スタートアップが後ラウンドで下方評価(ダウンラウンド)される場合、皆様の投資家の株式価値が大きく目減りしてしまうリスクがあります。このリスクを軽減するのがアンチ・ディリューション条項です。

  • フルラチェット方式
    新規発行株式の価格が下がった場合、過去に高い価格で投資した投資家にも新価格の条件で追加株式を付与する方式。投資家は完全に保護されるが、創業者や従来株主の希薄化が進むため、慎重な検討が必要です。
  • 加重平均ラウンド方式
    全体の投資額や株価、株式数などを加味して割り出した「加重平均株価」を採用し、皆様の投資家に対して株式を付与する方式。フルラチェットに比べて比較的公平とされている。

アンチ・ディリューションは投資家にとってメリットがある方、創業者や株主が大きく希薄化する可能性を孕んでいます。


3-6. タグ・アロング(Tag Again)/ ドラッグ・アロング(Drag Again)

タグ・アロング(共同売却権)とは、大株主が株式を第三者に売却する際に、少数株主も同条件で売却できる権利を確保する条項です。取り残さないための措置です。

一方、ドラッグ・アロング(強制売却)権は、大株主が第三者に株式を売る際に、少数株主にも強制売却をできる(同条件で株式を売却する)条項をご覧ください。 M&Aなどで株主全員の同意をスムーズに得るためにも活用されます。

  • 投資家目線
    一部の少数株主の同意を得られず、M&Aの成立が正義となるリスクを回避する。
  • 創業者目線
    不本意な売却に巻き込まれるリスクがあるため、条件や手続きが正しいかどうかがカギになる。

3-7. 将来的な資金調達の優先交渉権

スタートアップは成長段階に応じて複数回のラウンドで資金調達を行います。 投資家としては、将来の追加ラウンドで優先的に投資できる権利(Right of First Refusal / ROFR や Right of First Offer / ROFO) )を超えることで、初期に考えられるスタートアップへの追加投資枠を確保できます。


3-8. 保証・保証時の救済条項

投資契約や株主間契約の中で、スタートアップ側が自社の状況や知的財産権、リスクなどについての表明・保証を行う場合がございます。契約解除などの救済決定のが一般的です。

  • 投資家のメリット
    想定外のリスクが顕在化した際、損失をある程度カバーできる。
  • スタートアップの常識
    大きすぎる責任を負うため、経営リソースを圧迫する可能性があるため、範囲や限度額を検討することが重要です。

4. 投資家の視点で押さえておきたい留意点

ここからは、CVC担当者をはじめとする投資家側の視点で、株主間契約を検討・締結する際に留意すべきポイントを解説します。


4-1. 創業者・経営陣との認識のすり合わせ

スタートアップと投資家は、しばしば「スピード感」と「価値観」が違います。株主間契約には多くの条項が認められるため、各条項の意義や目的を創設者と共有し、意見をすり合わせることが重要です。

  • どのような条件でも投資家が意思決定に関与するか
  • 創業者の株式をどの程度ロックアップするか
  • 経営方針と戦略についての合意形成方法

これらを解消したまま契約してしまうと、後から「聞いていなかった」 などのトラブルに繋がる恐れがあります。


4-2. シェア・キャピタルテーブルの将来像

スタートアップは複数回の資金調達で株主構成が変動します。投資家にとっては、現在の株主構成(キャピタルテーブル)だけでなく、将来的なダウンラウンドや追加投資を見越した際の株式希薄化のリスクや、権利関係の変化を試算しておく必要があります。

  • バリエーション
    事業計画と整合性があるか。
  • 追加投資のシェア拡大戦略
    ROFR(First Refusal)などを活用して、どのタイミングで収益率を上げるか。
  • 共同投資家との連携
    他のベンチャーキャピタル(VC)やCVCが参加する場合、意思決定ルールをどう設計するか。

4-3. エグジットのシナリオとロックアップ期間

投資家は、将来的なエグジット(IPOやM&A)でリターンを確保することが多いが、その際にロックアップ期間や譲渡制限が壁になる可能性がある。かまたDrag Again / Tag Aroundの発動条件などを確認しておくことが大切です。

  • IPOの場合は
    上場後、一定期間のロックアップがかかるケースが一般的です。
  • M&Aの場合
    大株主が売却に応じることで少数株主のつもりも巻き込んでいくよう、契約で明確に保管してください。

4-4. リスク管理と情報開示義務

投資家にとっては、投資先の経営状況やリスク情報を正しく把握できるかが重要です。そのため、定期的な報告や重要事項に関する情報開示義務を株主間契約の中で設定する場合があります。

  • KPI・経営指標の開示
    営業利益、キャッシュフロー、ユーザー数など、スタートアップごとに重要なKPIを設定。
  • 重大リスクの早期報告
    マリスクや法規制の変更等が発生した場合、今後に投資家へ報告する。

4-5. 中長期の支援体制とガバナンス

CVCやVCは、報酬金のリターンだけでなく、事業シナジー長期的な成長支援を重視することが増えています。

  • 経営アドバイザリーの提供
  • 自社リソースやネットワーク活用の協力
  • 取締役会や経営会議でのフィードバック体制

などを盛り込むことで、スタートアップにとっても投資家の存在意義が明確になり、ウィンウィンの関係を築けるでしょう。


5.よくあるトラブル・注意事例

株主間契約に関して、実務上頻繁に発生するトラブルや注意すべきポイントをまとめます。

  1. その後から判断した投資家との権利衝突
    する投資家との優先株の権利構造が複雑になり、新規投資家が敬遠する事例。
  2. 創業者のモチベーション低下
    拒否権やガバナンス条項が強すぎると、創業者が柔軟な経営判断を下せなくなり、事業スピードが落ちます。
  3. ダウンラウンド時の過度な希薄化
    アンチ・ディリューションがフルラチェット方式で発動し、創業者の保有株比率が大幅に低下。
  4. 保証表明による混乱
    状況や知財関連で想定される外部のリスクが懸念し、大きな損害賠償の議論となります。
  5. エグジット戦略不一致
    投資家が初期のM&Aを望む方、創業者がIPOを目指したいなどのビジョンの違い。

これらのトラブルを未然に防ぐためにも、適切な専門家やアドバイザーを活用し、双方が納得できる形で契約を構築することが重要です。


6.株主間契約の作成・完了プロセス

一般的には以下のプロセスで株主間契約が作成・終了されます。

  1. タームシート(Term Sheet)の作成
    投資家とスタートアップが大枠の条件(投資金額、株価、優先権など)を合意する。
  2. デューデリジェンス(DD)
    実施法務・留意事項・ビジネス面のリスクを洗い出し、必要に応じて契約条件を調整。
  3. 契約書ドラフト作成・交渉
    弁護士や専門家を助けながら株主間契約のドラフトを作成し、交渉を行います。
  4. 最終合意・締結
    契約内容を最終確認し、当事者全員の意思決定・捺印をもって正式に締結。
  5. 追加株主の追加契約
    後続ラウンドで新たに参入する投資家については、株主間契約の追加契約を暫定締結。

ポイント:

  • 初期段階で専門家の意見を踏まえて設計、将来的なラウンドやエグジットを考慮した契約を行う。
  • 短期的な資金ニーズだけでなく、中長期の成長ビジョンに沿った株主間契約が完了します。

7. まとめ:株主間契約は成長とリスクヘッジを両立させる要

スタートアップの投資は高いリスクとリターンを伴い、投資家と創業者の思惑が複雑に絡み合います。その中で、株主間契約はお互いの利害と責任を明確にし、将来の成長とリスクヘッジを両立させる重要な手段です。

  • 投資家側
    投資の保護策やガバナンス権限を確保しながらも、創業者の成長・自由経営を損ねないように配慮する。
  • 創業者側
    必要以上に制限や義務を負わないようにしつつ、投資家の支援を最大限に考慮して事業拡大を決意します。

双方が合意に合意を形成し、将来的な大きなリターンとイノベーションの実現を目指せるよう、株主間契約を正しく設計することが肝要です。


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※本記事はいかなる情報提供を目的としたものであり、法的なアドバイスを提供するものではありません。 実際の契約締結一般や投資判断に際しては、弁護士や公認会計士など専門家にご相談いただくことを推奨いたします。