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J-KISS型新株予約権の契約内容の特徴とメリット・デメリット

2024.10.10

SB Insights

J-KISS型新株予約権の契約内容の特徴とメリット・デメリット

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はじめに

J-KISS(Japan – Key Investment and Stock Swap)型新株予約権は、日本のスタートアップや成長企業向けに、日米のベンチャーファイナンスに詳しい森・濱田松本法律事務所の増島雅和先生によって設計され、その後VCや税理士といった専門家のレビュー済みのひな形として、主にシード期のスタートアップにおいて、汎用性が高く流用可能な新しい資金調達手法(契約形態)です。これは、特定の条件のもとで新株を予約できる権利を提供する契約であり、企業の資金調達や株式の流動性を向上させる手段として注目されています。本稿では、J-KISS型新株予約権の契約内容の特徴、メリット、デメリットについて詳しく解説します。

J-KISS型新株予約権の特徴

誰もが自由に使えるシード投資のための投資契約書

J-KISSとはCoral Capitalがメンテナンスを行いオープンソースとして無償公開しているコンバーティブル・エクイティを使ったシード投資のための投資契約書です。契約書のひな形は、こちらのページからダウンロードしていただけます。

1. 新株予約権の基本

  • 新株予約権の定義:新株予約権は、一定の条件のもとで将来の株式を取得する権利です。
  • 発行対象:J-KISS型新株予約権は主にベンチャーキャピタルや投資家に対して発行されます。

2. 契約内容の特徴

  • 企業価値を決めずに資金調達可能:バリュエーションをシリーズAラウンドまで先送りできる
  • 割引価格で株式を取得可能: シリーズAラウンドで発行される株式をディスカウント(割引)を受けて、取得が可能になる。

J-KISS型新株予約権のメリット

1. 投資実行が速い

  • 迅速な資金調達:スタートアップにおける資金調達では、J-KISSのようなコンバーティブル投資手段は、株式による資金調達に比べて交渉から着金までの全てが圧倒的に速く完了します。これは投資家にとっても魅力的ですが、事業づくりに専念したいスタートアップにとっても重要なことです。
  • 多様な投資家の参加:ベンチャーキャピタルや個人投資家など、さまざまな投資家からの資金を引き入れることができます。

2. 投資の詳細条件を繰り延べできる

  • 不確定要素の高い条件を先延ばしにできる:J-KISSによる資金調達では細かな条件の決定を、次の大きな資金調達まで繰り延べます。一旦、「仮」の投資契約で最低限の条件だけ定めて資金調達しておき、事業がもっと進捗してから行う、より大きな資金調達の際に締結する投資契約に後で置き換える=転換することができます。

3. 透明性が高く、コストが抑えられる

  • ディファクトスタンダードの契約書:シード期の多くの場合、ひな形の条項について修正を加えることなく利用ができます。修正が加えられていないことは契約書冒頭に明記されます。逆に言えば、修正されている場合には容易にそれがわかります。このことから業界標準の契約書という透明性の高さが担保されます。
  • リーガルコストの抑制:J-KISSはシリコンバレーで培われたノウハウの詰まった投資契約書のひな形、弁護士や税理士といった専門家のレビュー済みのため、国内の規制や法律に適合しています。このため投資契約の修正や交渉を省くことができ、結果として起業家と投資家双方の取引コストを最小限にできます。

J-KISS型新株予約権のデメリット

1. ディスカウントとCAPには明確な基準がない

  • ディスカウントとCAPの兼ね合い:J-KISSという契約の建付け自体からくるもではありませんが、キャップとして設定された額によっては次のようなデメリットが生じます。
    まずは、実はこのキャップの額についても客観的な基準があるわけではないので、キャップの額が低く定められてしまうと、転換時により低い企業価値評価額、すなわち安い転換価額で転換されるため、J-KISS取得者が企業価値評価があがったことによる果実を不相応に多くとることになり、起業家にとって合理性がない結果になってしまうことがあります。本来は、コンバーティブル・エクイティを利用することにより企業価値評価を後ろ倒しにできるため、起業家がより有利な転換価額で資金調達ができることを目的としたはずですが、キャップによって、事実上企業価値評価額が固定化していることと変わらない結果にもなります。J-KISS取得者に不相応に大きなシェアを取られてしまうことが発生しうることにもなるわけです。
  • 株式の希釈化が高まる可能性がある:J-KISSは、次回資金調達時のバリュエーションに基づき、株式に転換されますが、一般的には、その基準となるバリュエーションには上限やディスカウントが定められます。そのため、次回資金調達時のバリュエーションが低額だった場合、そこからさらにディスカウントされますので、想定よりも多くの株式比率を放出してしまう可能性があります。

まとめ

J-KISS型新株予約権は、スタートアップや成長企業にとって有効な資金調達手段ですが、ひな形だからと、ディスカウントやCAPなどを適当に決めてしまうことがないように注意が必要です。メリットとデメリットを十分に理解した上で、適切な戦略を立てることが成功への鍵となります。企業は、自らの成長を見据えた資金調達方法として、J-KISS型新株予約権を検討する価値があります。

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