スタートアップの事業会社からの資金調達について:メリットとデメリットを事例付で解説

2024.07.06

SB Insights

スタートアップの事業会社からの資金調達について:メリットとデメリットを事例付で解説

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近年、日本国内においてもスタートアップ企業が事業会社から資金調達を行うケースが増加しています。この背景には、事業会社によるオープンイノベーションへの積極的な取り組みや、スタートアップ企業の革新的な技術・サービスへの期待の高まりなどが挙げられます。

しかし、事業会社からの資金調達が必ずしもシナジー創出に繋がるとは限りません。シナジー創出には、綿密な計画と実行、そして関係者間のコミットメントが必要不可欠です。

本稿では、日本国内におけるスタートアップの事業会社からの資金調達を、スタートアップ側事業会社側のそれぞれメリットデメリットに分けて事例を基に詳細に考察します。

1. スタートアップ側

メリット

資金調達

  • 事業会社からの資金調達は、スタートアップ企業にとって大きな資金調達手段となります。
  • 従来のベンチャーキャピタル(VC)からの調達に比べて、回収期間までの柔軟性が高く、資金も潤沢であることから追加投資なども受けやすいことからディープテック系のスタートアップなどは運用期間が定められているVCよりも相性がよい。
  • VCの場合は主に資金面や以外の支援は期待できないが、事業会社からの資金調達の場合は、資金面以外にも事業会社のアセットを活用した成長支援を受けられる場合がある。
  • 投資を専業としていない優良な事業会社からの出資は、スタートアップ企業の信用力向上にも繋がる。

事業拡大・新事業開発

  • 潤沢な資金を活用することで、事業の急速な拡大や新事業の開発が可能となります。
  • 事業会社からの資金調達は、従来では実現困難だったような大規模な投資やリスクの高い挑戦を可能にする可能性があります。

事業シナジーの創出

  • 事業会社との協業を通じて、新たな技術やノウハウを獲得したり、事業会社が持つ顧客基盤や販売網を活用したりすることで、事業シナジーの創出が期待できます。
  • 特に、事業会社との合弁会社設立やM&Aを通じて、事業規模を拡大したり、新たな市場に進出したりすることが可能になります。

事例:KDDIの子会社として成長を遂げて上場をしたソラコム(スイングバイIPO)
ソラコムは14年に設立されたスタートアップで、17年にKDDI子会社となった。KDDIの信用力を背景に成長を遂げ、22年に上場を申請したが、市況の悪化を受けて申請取り下げを余儀なくされた。事業基盤が脆弱なスタートアップにとって、新規株式公開(IPO)の手続きを仕切り直しすることは容易ではないが、ここでもKDDIの信用力を武器に持ちこたえ、3月26日に東証グロース市場への上場を果たした。

デメリット

経営の独立性の制限

  • 事業会社からの多額の出資を受ける場合、経営に関する意思決定において、事業会社の意向に沿う必要が生じる可能性があります。
  • 場合によっては、事業会社の指示に従って経営を行う必要が生じることもあり、スタートアップ企業の経営の独立性が制限される可能性があります。

シナジーを求められすぎて、本来の成長が阻害される。

  • 事業会社からの出資を受ける場合、特定の事業会社がシナジーを求めすぎることにより、スタートアップ企業が自社単独での成長が阻害されてしまう可能性があります。
  • 事業会社が求める収益性や成長性などを優先する必要が生じ、スタートアップ企業本来の事業ビジョンを実現しにくくなる可能性があります。

2. 事業会社側

メリット

オープンイノベーションの推進

  • スタートアップ企業との協業を通じて、自社では開発困難な革新的な技術やサービスを獲得することができます。
  • オープンイノベーションを積極的に推進することで、事業の活性化や競争力強化を図ることができます。

事例:本田技研工業が自社にとって有望な技術に対して、スタートアップ企業に投資を行う。

この事例は大企業にとって将来的に必要になる技術ではあるが、自社のメイン事業において必須ではなく、多額の研究開発費用を割くことができない技術に対して、スタートアップ企業に投資をすることで、他社の資金なども用いながら開発を進めていくというCVCの醍醐味ともいえる事例となっている。

本田技研工業株式会社 執行役常務 小澤 学氏のコメント
同社はLIBのリサイクルにおいて先進的なコンセプトや技術を持つ企業です。同社のコア技術である革新的溶媒抽出技術「エマルションフロー」は、2050年サステナブルマテリアル率100%に取り組むHondaにとって有望な技術の一つになると考え、シリーズAでの出資に続き、追加出資を決定いたしました。シリーズBの資金調達完了により、同社の技術革新や事業拡大がさらに加速することを期待しています。

新規事業の創出

  • スタートアップ企業との協業を通じて、新規事業のアイデアやノウハウを獲得することができます。
  • 51%以上の株式を保有するM&Aと違って、連結対象としないため自社への影響度合いが少ないことから、従来の事業領域とは異なる分野への参入や、思い切った新たな市場への進出が可能になり、事業拡大の機会となる。

まとめ

本稿では、日本国内におけるスタートアップの事業会社からの資金調達を、スタートアップ側事業会社側のそれぞれメリットデメリットに分けて事例を基に詳細に考察してきました。
スタートアップ企業と事業会社の資金調達においては、狙い通りのシナジー効果を生み出せないという悩みや課題を抱えている企業も少なくなりません。
スタートアップ企業においても、相手先を間違えると自社の成長が阻害される可能性もあるため、慎重に検討を進めていく必要があります。
一方で、スタートアップ企業と事業会社は補完関係にあることが多く、うまく連携することで両社の発展に繋がるケースも多いです。

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