本記事では、イノベーションのジレンマの要点を整理し、その克服策としてのオープンイノベーションを、実務の観点から解説します。
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目次
イノベーションのジレンマの概要
イノベーションのジレンマとは、成功している企業ほど「現在の顧客」「現在の利益構造」「現在の評価指標」に適合する取り組みを優先し、初期は小さく見える新市場・新技術への投資が後回しになる現象です。
ここで重要なのは、ジレンマが怠慢や判断ミスの結果ではなく、むしろ正しい経営の延長線上で発生しやすい点です。
新しい芽は、初期段階では売上規模も小さく、粗利も低く、既存顧客のニーズと一致しないこともあります。そのため既存の基準で評価すると「今はやらない」という結論になりやすい。しかし、その芽は別の顧客層や利用シーンで急速に価値を高め、やがて主戦場の前提そのものを置き換えていきます。

なぜ合理性が裏目に出るのか
ジレンマが起きる本質は、意思決定が「既存の物差し」で行われ続ける点にあります。
既存顧客の要望は明確で、売上につながる確度も高い。すると組織は自然とそこに資源を配分します。評価制度や予算審査も短中期の確実性を重視するようになり、不確実性の高い探索投資は通りづらくなります。
結果として、新領域は「データがないから判断できない」「根拠が弱い」と言われて検討が止まりますが、止まっている間にも市場は進みます。問題は、アイデアの良否ではなく、探索に必要な学習の場が確保されないことです。
既存事業の運転ルール(効率・再現性・予測可能性)で、未知の領域(探索・学習・仮説検証)を裁こうとすることで、適応が遅れます。
オープンイノベーションが有効になりやすい理由
オープンイノベーションは、イノベーションのジレンマを完全に消し去る特効薬ではありません。ただし、実務として「探索を進める条件」を整えやすい手段です。
外部との連携は、社内では作りにくい検証スピードや選択肢、学習機会を補完し、組織の硬直性を迂回する効果を持ちます。
スタートアップは、特定テーマへの集中投資や迅速な試作、仮説検証のスピードに強みがあります。一方で大企業は、顧客基盤、チャネル、ブランド信頼、データ、オペレーション資産、規制対応力といった事業化の土台を持つ。
両者の組み合わせは、「探索」と「スケール」のギャップを埋める構造を作りやすく、ジレンマ下でも前進する余地を生みます。
連携しているのに進まない、典型パターン
オープンイノベーションが失敗する場面では、連携自体が目的化し、意思決定に必要な学習が残らないことが多いです。
たとえばPoCがデモや試作で終わり、事業としての成立条件(誰に、どんな価値を、どのコスト構造で届けるのか)に踏み込めない。あるいは検証結果があっても、既存事業の評価軸に戻した瞬間に「売上規模が小さい」「収益性が弱い」と判断され、次に進めない。
つまり、連携の有無よりも、「探索に適した設計」があるかが分岐点になります。探索は正しさの証明ではなく、次の判断材料を増やす活動です。ここを踏まえて連携を設計できるかどうかで、オープンイノベーションの質が変わります。
ジレンマを踏まえた実務の打ち手
イノベーションのジレンマを乗り越えるには、探索を既存事業と同じルールで扱わない設計が必要です。
最初から完璧な事業計画を作るのではなく、「学習→意思決定→次の学習」のループを回すことが現実的です。特に重要なのは、検証の問いを絞り、合否ラインを置き、短期間・必要十分なスコープで検証を回すことです。
検証結果は、継続・転換・中止の判断に使える形で残す必要があります。
このループを社内だけで回すのが難しい場合、外部連携を活用しながら、検証設計・契約設計・推進体制を整えることが、探索の停滞を減らす打ち手になります。

支援をどう使うと前に進むか
オープンイノベーションを推進する際、外部の支援を入れる価値は、紹介やイベント運営よりも「探索から事業化までのプロセスを、意思決定に耐える形で設計・運用する」点にあります。
具体的には、次のような支援が実務上効きやすい領域です。
戦略と仮説の言語化
既存の物差しではなく、新領域で勝つための仮説と検証論点を定義し、社内で説明可能な形に落とします。
パートナー探索と比較検討
候補を点で拾うのではなく、選択肢を面として揃え、評価・検証の前提を整えます。
関係者間の期待値調整
事業部・法務・調達・情報システムなど、意思決定に関わる論点を早期に揃え、検証が止まるポイントを先回りして潰します。
事業検証(FS/PoC)の設計と推進
短期間・必要十分で学習が残る検証にし、次の意思決定に接続します。
事業化に向けたアライアンスや契約
必要に応じた資本面の整理と、実行後のモニタリングを行います。
これらは、ジレンマが生む停滞(評価軸のズレ、部門間摩擦、検証の目的化)を、実務的に減らして前進させるためのプロセスの整備だと捉えると理解しやすいでしょう。
まとめ
イノベーションのジレンマは、既存事業で成功している企業ほど合理的に陥りやすい構造問題です。
克服には、探索に適したルールで学習を回し、意思決定につながる検証を積み上げることが欠かせません。オープンイノベーションは、その学習速度と選択肢を増やし、事業化に必要な資産へ接続しやすくする手段になり得ます。
ただし連携をイベント化せず、検証設計と意思決定のループとして設計することが成功の前提です。
