既存事業を"深化(Exploitation)"しながら、新規事業を"探索(Exploration)"する。この相反する活動を同時に実現しなければ、企業は継続的な成長を描けない──これが両利きの経営の本質です。一方で、探索領域における成功確率を高める手段として、オープンイノベーションとスタートアップ連携が急速に広がっています。自社だけのリソースでは限界がある今、外部の技術・アイデア・スピードを取り込むことは、企業の競争力に直結するテーマとなりました。
本記事では、「両利きの経営」「オープンイノベーション」「新規事業開発」という3つのキーワードを軸に、変革期の企業が取り組むべき経営アプローチを体系的に解説します。
目次
両利きの経営とは何か
両利きの経営の定義と背景
両利きの経営(Ambidextrous Management)とは、既存事業の深化(Exploitation)と、新規事業の探索(Exploration)を同時に進める経営モデルを指します。
- 深化(Exploitation):効率化・改善・最適化・収益性向上
- 探索(Exploration):新規事業・新市場開拓・新技術の実装
企業が長期的に生存するためには、短期的な利益(深化)と、中長期の成長源泉(探索)の両立が必要であると、ハーバード大学のチャールズ・オライリーなど多くの研究者によって論じられてきました。
しかしこの両立は一見シンプルに見えながら、実務では「ほぼ不可能」と言われ続けてきた難題でもあります。
深化と探索は”文化”も”評価軸”も真逆
深化領域(既存事業)は、
- 安定性
- 効率性
- 再現性
- 正確性
を重視します。在庫管理、品質管理、コスト削減など、課題は明確で改善施策も体系化されています。
一方、新規事業の探索領域では、
- 不確実性
- 試行錯誤
- 仮説検証
- 迅速な意思決定
などが求められます。
つまり、既存事業と探索事業は、求められる文化も評価軸も人材特性もまったく異なるのです。
このギャップが”両利き”の実現を困難にしてきました。

両利きの経営が求められる理由
不確実性の時代における企業の生存戦略
今日、多くの企業が以下の課題に直面しています。
- 既存事業の市場成熟
- 技術革新の加速
- デジタル化による産業構造の再編
- 新興プレイヤーの台頭
- 人口減少や価値観変革による需要変化
かつてのように、既存事業だけを磨き続けていく経営(深化偏重)では生き残れません。同時に、新規事業の”探索のみ”でも企業価値の安定性を失います。
だからこそ企業は、深化と探索を同時並行で行う両利きの経営が不可欠となっているのです。
深化偏重の企業が陥る「イノベーションのジレンマ」
有名な「イノベーションのジレンマ」でも語られているとおり、大企業は既存事業で成功するほど、
- 大きな事業利益が捨てられない
- 評価軸が効率と確実性に寄る
- 新規事業は”小粒で不確実”として、軽視されやすい
という構造に陥ります。
これは意思の問題ではなく、構造的な問題であり、組織デザインの問題です。
この構造を打破するために必要なのが、
- 組織分離
- ガバナンス分離
- 人材と評価軸の分離
などのアプローチを組み込んだ”両利きの経営”というわけです。
両利きの経営とオープンイノベーションの関係
オープンイノベーションは「探索領域」を強化するための装置
新規事業の探索は、自社単独で行うにはリスクが高く、スピードが遅いという根本的な問題があります。
そこで有効なのが、オープンイノベーション×スタートアップ連携です。
- 自社にない技術を取り込む
- スピード感あるプロダクト開発を実現する
- 顧客課題の解像度を補完する
- 新市場参入の足がかりを作る
など、探索領域を強力に後押しするアプローチとして、多くの企業が導入しています。
なぜ両利きの経営とオープンイノベーションは相性が良いのか
理由は次の3点に整理できます。
① 探索領域に必要な「外部資源」が得られる
新規事業は情報も技術も人材も不足します。スタートアップ連携により、探索のスピードと精度が上がります。
② 組織文化の異質性を”外部”に置ける
探索は失敗を前提とした文化。既存組織の中で育てようとすると、摩擦が生まれます。外部連携を前提とすることで、この摩擦を軽減できます。
③ 経営層のコミットメントを引き出しやすい
外部との協業は”経営判断”として位置づけられやすく、探索領域への投資判断が進みやすい特性があります。
両利きの経営を実現する組織デザイン
組織分離型と統合型の2つのモデル
両利きの経営では、探索領域と深化領域の「組織の分け方」が重要です。
分離型(Structural Ambidexterity)
新規事業組織を既存組織から切り離すモデル。
- 探索事業部
- 新規事業推進部
- CVC
- アクセラレーションチーム
などが典型例。
メリット:文化衝突を避けられる
デメリット:既存事業との連携が弱くなるリスク
統合型(Contextual Ambidexterity)
既存事業組織の中に探索機能を内包するモデル。
- 現場起点のアイデア創出
- DX推進と既存事業改善の融合
メリット:既存事業とのシナジーが出やすい
デメリット:探索の自由度が抑制されがち
分離型×統合型の”ハイブリッド”が最も現実的
実務では、両者のハイブリッドモデルが最も効果的です。
例:
- 新規事業アイデアは現場から収集(統合)
- 事業検証は専任チームで対応(分離)
- オープンイノベーションで外部リソースを補完
- スケール段階で既存事業と統合
こうした”段階別の役割分担”が成否を分けます。
両利きの経営を支える「人材」と「評価制度」
探索領域に必要な人材像
探索領域には、次の特性を持った人材が向いています。
- 仮説構築力
- 顧客課題への洞察
- 外部との協業に抵抗がない
- 不確実性を許容できる
- スピーディに試行錯誤できる
一方、深化領域と同じ評価軸で探索人材を評価すると、うまく機能しません。
探索人材を支える評価制度とは
探索領域では結果よりプロセス評価が重視されます。
- 顧客の課題仮説をどれだけ深掘りできたか
- 検証サイクルをどれだけ回したか
- 事業モデルの実現可能性をどこまで見極めたか
こうした「探索の質」を評価する制度が必要です。
新規事業の探索プロセスとオープンイノベーション
アイデア着想 → パートナー探索 → 検証 → 事業化
新規事業は以下のプロセスで進みます。
- アイデア着想
- スタートアップ等のパートナー探索
- 事業検証(FS、顧客検証)
- 0→1事業化
- Exitを見据えた事業拡大
この全プロセスに、オープンイノベーションは関与し得ます。

外部連携を活かすべきポイント
特に探索初期の以下工程では、外部連携が大きな価値を発揮します。
- 顧客課題の探索
- 技術トレンドの理解
- PoCの実施
- プロダクトの共同開発
- スケール時の協業
探索をスピードアップしつつ、失敗コストを下げられる点が最大のメリットです。
両利きの経営を阻む組織課題と打ち手
よくある失敗パターン
- 既存事業側が探索を”遊び”と捉える
- 探索チームが孤立し、社内で影響力を持てない
- 評価制度が深化寄りで、新規事業が育たない
- PoC止まりで終わる
- 経営層のコミットメントが弱い
打ち手:経営・組織・ガバナンスの再設計
- 経営層が探索領域の”オーナー”になる
- 既存事業と探索の橋渡し役(インターフェース人材)を配置
- 探索チームの権限と予算を確保
- 事業化フェーズで既存組織と統合
- KPIはフェーズごとに設計
両利きの経営は仕組みづくりであるため、構造的な解決策が不可欠です。
新規事業と両利きの経営の未来
AI、宇宙データ、クリーンテック、ウェルビーイングなど、事業機会はますます多様化しています。こうした時代に必要なのは、
- 深化領域の稼ぐ力
- 探索領域の未来をつくる力
という”二つの筋力”を同時に鍛える経営です。
両利きの経営は一過性のトレンドではなく、企業が長期的に生き残るための普遍的モデルといえます。
まとめ
本記事のポイントをまとめると以下のとおりです。
両利きの経営とは?
既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う経営モデル。
なぜ必要なのか?
市場成熟・競争激化・技術革新が進む中、深化だけでも探索だけでも企業は生き残れないから。
オープンイノベーションとの相性
探索領域のスピードと精度を劇的に向上させるため、両利きの経営を支える重要な手段。
実現の鍵は”構造デザイン”
- 組織分離
- 評価制度
- 人材
- ガバナンス
- 経営層のコミットメント
これらを整理しなければ両利きは成立しない。
企業は探索能力を外部と組むことで強化すべき
スタートアップ連携こそ、探索領域の強化に最も効果が高いです。市場の変化が速い今こそ、スタートアップ連携を企業変革の起点に。オープンイノベーションの実装パートナーとして、ソーシング・ブラザーズは検討設計から運用まで伴走できます。
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